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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)2446号 判決 1984年9月13日

控訴人(被告) 日本電信電話公社

被控訴人(原告) 堀越正行

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決中、被控訴人に関する部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。控訴人と被控訴人の間に生じた原審の訴訟費用、及び当審の訴訟費用はいずれも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加・訂正し、かつ、当審における主張・認否を加えるほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

1  (原判決事実摘示についての付加・訂正)

(一)  原判決四丁裏九行目の「乱入して、」の次と、五丁表六行目、同裏二行目及び八行目六丁表三行目及び八行目の各「乱入し、」の次に、それぞれ「管理者の中止命令を無視して、」を加える。

(二)  同八丁表一行目の「行つたものである。」の次に「なお、右各非違行為のうち、<1>管理者の中止命令・退去命令に従わなかつた点は右就業規則五九条三号に該当し、<2>局舎裏門を損壊したこと、ジグザグデモ、集会、アジ演説、シユプレヒコール等を行い、又はそれらを指導、指揮したことは、それぞれ同規則五条五項、六項に違反して、五九条一八号に該当し、<3>線路庁舎移転反対の実力行為を事前に計画指導した点及び共通事務室を喧騒状態に陥れた点は同規則五九条一九号に該当するほか、<4>これらの行為は全体として同規則五条八項に違反し、五九条一八号、二〇号に該当するものである。」を加える。

(三)  同八丁表末行の「移転に」の次に「反」を加える。

(四)  同一一丁表六行目冒頭から七行目の「該当すると」までを「就業規則五九条三号にいう『上長の命令に服さないとき』に該当する事由があつた旨を主張」と、同裏一行目の「の退去命令」を「主張にかかる中止命令・退去命令」と、同四行目の「本件」を「右中止命令・」と、同七行目から八行目にかけての「退去」を「右各」と、それぞれ改める。

2  (当審における主張・認否)

(一)  控訴人の主張

線路庁舎の移転阻止を標榜する八月一八日の行動は、共通事務室への立ち入りを含め、すべて事前に企画、立案された計画に基づいて行われたものであるところ、被控訴人は、右企画、立案に積極的に参加した「中心的メンバー」の一人であるうえ、少くとも、共通事務室及びその周辺以外の場所における諸行動に際しては、ジグザグデモの最前列でデモ隊を指揮するなど、第一審相原告房家に次ぐ積極的役割を果していたものである。そうとすれば、仮に被控訴人が共通事務室及びその周辺における行動に加つていなかつたとしても、そのことは被控訴人に対する本件停職処分の基礎事実にさしたる影響を及ぼすものではなく、右処分に控訴人の裁量権の範囲を逸脱した違法があるということはできない。

(二)  被控訴人の認否

控訴人の当審における主張は、すべてこれを争う。

三  証拠関係<省略>

理由

一  本件についての当裁判所の事実認定は、後記第三項において付加するほか、当事者間に争いのない点を含め、すべて原判決理由第一項及び第二項1の説示するところ(原判決一四丁裏七行目から二五丁裏五行目まで)と同じ(ただし、原判決一五丁裏三行目から四行目にかけての「及び成立ともに真正に成立したものと」を「とその成立の真正が」と改め、五行目の「第四号証」から六行目の「とも)、」までと、八行目の「第三五号証の二及び六、」をいずれも削除し、一六丁表四行目の「乙第二二号証」の次に、「、控訴人主張の写真であることにつき争いのない乙第四号証の一ないし二二、第三五号証の二、六、」を、八行目の「結果」の次に「(現場及び録音テープ)」を、各加える。)であるから、これを引用する。なお、いずれも、弁論の全趣旨により成立を認める乙第三八号証の一ないし三、第三九、第四〇号証の各記載及び原審証人中村正夫、当審証人西ヶ谷禎二の各証言中、共通事務室内に乱入した者のうち被控訴人が含まれていたことをいう趣旨の部分は、これを否定する原審証人戸村のぶ子、当審証人房家成子の各証言、原審における相原告房家及び被控訴人各本人尋問の結果に照らし、また、共通事務室内の状況を撮影した写真である前顕乙第四号証の一七ないし二二(これらの写真中には被控訴人を除く第一審相原告ら全員が撮影されているにもかかわらず、被控訴人だけが撮影されていない。)に比照し、たやすく採用できず、他に被控訴人が共通事務室及びその周辺部(局舎内)(以下「共通事務室等局舎内」という。)に立ち入つたことを認めるべき的確な証拠はない。

二  右のとおり、被控訴人の共通事務室等局舎内立ち入りと、その立ち入りを前提とした被控訴人の行動に関する控訴人主張の事実はこれを認めがたいが、右引用にかかる原判決認定の事実関係からすれば、線路庁舎移転阻止等を標榜して八月一八日に行われた諸行動(以下「本件阻止行動」という。)のうち、被控訴人の直接関与した行為が少くとも控訴人の就業規則五九条三号、一八号(五条五項、六項、八項違反)、二〇号に該当すること、したがつて、被控訴人について控訴人の就業規則の定めによる懲戒事由のあつたことは明らかといわなければならない。

ところで、被控訴人は、本件阻止行動は全体として正当な組合活動に該当するので、これを理由として懲戒処分を行うことは許されず、また、被控訴人及び第一審相原告らに対する本件各停職処分は、団体たる組織自身の行為と評価すべき本件阻止行動を理由に、控訴人の意にそわない組合幹部の懲戒責任を問うものであつて、不当労働行為性が強く、違法であると主張する(引用にかかる原判決事実摘示中の「原告らの反論」1及び4)。しかしながら、前記引用にかかる原判決認定の事実関係からすれば、本件阻止行動は、分会(全電通船橋分会)内部で少数派にとどまる被控訴人及び第一審相原告らが線路庁舎移転等に関する分会執行部と控訴人間の合意を無視し、これに反対する立場から控訴人の線路庁舎移転作業を実力をもつて阻止又は妨害し、或いは少くとも右反対の立場を示威するため、企画、立案し、実行したものであつて、その結果、移転作業当日の午前七時一〇分ごろから同一一時五五分ごろまで、船橋局内を混乱に陥れ、その正常な業務の運営を妨げたものであり、このような本件阻止行動の動機、目的、結果、並びに同じく引用にかかる原判決認定の本件阻止行動の態様、これについての各人の役割及び具体的行為などに照らし考えれば、本件阻止行動は正当な組合活動の範囲を逸脱していることが明白であり、また、本件各停職処分はただ単に被控訴人及び第一審相原告らが労働組合の幹部であるがゆえになされたものでないことも明らかなので、被控訴人の前記主張はいずれも採用できない。

なお、就業規則五九条三号該当事由不存在に関する被控訴人の主張(前示「原告らの反論」2)に対する当裁判所の判断は、この点についての原判決の理由説示(原判決二六丁表二行目から二七丁表九行目の「理由がない。」まで)と同一(ただし、原判決二六丁表七行目の「退去命令」を「中止命令・退去命令等」と、同裏三行目の「本件退去命令」を「右中止命令・退去命令等」と、同行から四行目にかけての「基づく退去命令としてされた」を「基づき発せられた」と、二六丁裏一行目、六行目、一〇行目の各「退去命令」をいずれも「命令」と、それぞれ改める。)であるから、これをここに引用する。

三  そこで次に、懲戒権濫用の主張について検討するに、被控訴人に対する本件停職処分の前提として控訴人が認識しかつ、同処分の対象とした事実のうちには、被控訴人が共通事務室等局舎内に立ち入り、他の第一審相原告らと行動を共にしたという事実が含まれていたことは弁論の全趣旨により明らかであるが、右事実を認めがたいことは前叙のとおりであるから、この点については控訴人に事実の誤認(以下「本件事実誤認」という。)があつたものといわなければならないところ、控訴人は、仮に共通事務室等局舎内立ち入り等の事実が認められないとしても、そのことは被控訴人に対する本件停職処分の基礎事実にさしたる影響を及ぼすものではない旨主張する(控訴人の当審における主張)。そして、前顕戸村の証言、同じく第一審相原告房家及び被控訴人各本人尋問の結果によれば、なるほど、本件阻止行動は被控訴人も参加して企画、立案された計画に基づいて実行されたものであり、その計画のうちには船橋電報電話局長に面会を求めるための共通事務室等局舎内への立ち入りが含まれていたことが認められるほか、前記引用の原判決認定の事実からみれば、共通事務室等局舎内以外の場所における本件阻止行動について、被控訴人が他の第一審相原告ら(房家を除く。)と共に積極的役割を果していたことは否定できず、また、被控訴人が共通事務室等局舎内に立ち入らなかつた理由は、第一審相原告房家の指示により本件阻止行動終了後に開催すべき総括集会の会場借用手続に赴き、その間、デモ隊を離脱して、右阻止行動を行わなかつたためであつて、その後再び戻り来つて、他の場所における本件阻止行動に合流したことが明らかである。しかしながら、被控訴人の参画した本件阻止行動の立案段階ですでに、前認定(原判決引用)の共通事務室等局舎内において、現実に発生した第一審相原告らの具体的な非違行為(管理者らの制止を押しのけて共通事務室の置かれている局舎内、さらには共通事務室内に乱入し、再三の退去命令をも無視し、管理者らに対し罵声をあびせたり、シユプレヒコールを行うなどして、右事務室及びその周辺部を混乱状態に陥れ、控訴人の正常な業務の運営を妨げた行為)を行うことまでが、あらかじめ具体的に予定されていたものと認めるべき証拠はない。してみると、被控訴人が本件阻止行動の立案に参画したこと(なお、参画の具体的内容、程度を認めるに足りる証拠はない。)など、前記説示の事情を考慮しても、共通事務室等局舎内における第一審相原告らの右非違行為について、共通事務室等局舎内の非違行為を為していない被控訴人にそれを為したと同様の責任を問うことは許されないというべきである。しかも共通事務室等局舎内における本件阻止行動とそれ以外の場所における同阻止行動との間には、局舎の内外という場所的関係からみても、また前認定(原判決引用)のそれぞれの行為の具体的態様からみても、控訴人の業務に及ぼす影響面(業務阻害の結果等)において少なからぬ径庭があり、前者は後者に比較し、より重大な非違行為にあたることが明らかである。果してしからば、かかる重大な非違行為に関する本件事実誤認のもとになされた被控訴人に対する本件停職処分には、控訴人の有する裁量権の範囲を逸脱した違法があり、無効と断ぜざるを得ない。けだし、共通事務室等局舎内の本件阻止行動に参加しなかつた被控訴人に対し、それに参加したと誤認してなされた停職六か月という懲戒処分は、局舎外において被控訴人と行動を共にしたほか、共通事務室等局舎内の右行動にも関与した第一審相原告らに対する各懲戒処分、とりわけ房家を除く第一審相原告らに対する右と同一期間の停職処分と明らかに著しく均衡を失し、ひいては本件阻止行動中の被控訴人が関与した行為に対しても、明らかに著しく均衡を失するものというべきであり、しかも、過去の処分歴、その他懲戒処分の選択にあたり考慮すべき懲戒事由該当の非違行為以外の諸事情についての主張立証はないうえ、記録上認められる本件訴訟の経緯及び弁論の全趣旨によれば、かえつて、右諸事情において被控訴人と房家を除く他の第一審相原告らとの間にさしたる相違がないことがうかがえるのであつて、結局、本件全資料を検討すれば、本件事実誤認に基づいてなされた被控訴人に対する本件停職処分は、信義誠実の原則、衡平の法理に照らして考量しても、著しく合理性を欠くもの、すなわち社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者の裁量権の範囲を超えるものとして是認できないというほかないからである。

四  以上の次第で、被控訴人に対する本件停職処分はその効力を認めがたいから、同処分の無効確認を求める被控訴人の本訴請求は理由がある。したがつて、同請求を認容した原判決中の被控訴人に関する部分は相当であり、これに対する本件控訴は理由がないものとして棄却を免れない。

よつて、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤静思 奥平守男 尾方滋)

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